Here Todayの構成美

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ポール・マッカートニーがジョン・レノンに捧げた作品、Here Todayはライブではギター一本で演奏されるため、そのイメージが強いけど、スタジオ版では弦楽四重奏と共に演奏されており、それはYesterdayを超える名アレンジだと思う。
それを語るためには、まずはHere Todayという曲の作曲と作詞の巧みさから語らなくてはなりません。
 

1.歌詞について

 
歌詞については気が付いている人が大半でしょうが、最後の節では”Here Today”の意味合いが、たった一つの接続詞”For”が挿入されることで冒頭部と逆転しています。
 
私的な体験から出発しても、最終的に必ず客観視して、異化することにより、普遍化させるポールにしては、この曲は私的な面がストレートに表れている作品ではありますが、それでもこのようなあざやかな技術を効かせる点はさすがポールだと思います。

2.和声について

このことを語っている人をあまりみたことがありませんが、My Valentineで聴かれるように、ポールは和声によって光と陰の対比を表現させ、それを詞とリンクさせることが非常に得意です。
 
Here Todayはその極めて巧みな例で、冒頭はC#m7-5の悲痛な響で曲を開始します。曲そのもののKey はKey of Gなのですが
 
1. C#m7-5という主和音になり得ない、ノンダイアトニックコードから曲が開始される
2. サブドミナントマイナーが強調されている
 

という二つの点から長調の明るさを感じさせない作りになっています。そのことがジョンとの思い出の輝かしさが歌われる中間部と光と陰の対比の効果を作り出します。

Key of Cに転調する中間部はまるで思い出の輝かしさを表現するかのように、闇がパッと照らされるのです。

3.Here Todayの構成美

さて、この記事のはじめに、”Here Today”という言葉の意味合いが最初と最後で逆転していることを指摘しました。それを強調しているのが、ジョージ・マーティンの編曲による弦楽四重奏です。中間部を経て、冒頭のメロディが再現されるとき、ヴァイオリンが初めて高音を演奏します。このサウンドじゃまるで宗教画に描かれた光のように感じられ、もはや最初のような悲痛さはそこにはありません。
 
それは偶然ではなく、中間部で転調することによってジョンと出会えたことの喜び、思い出の輝かしさを表現し、最後で”Here Todayの意味が逆転するという作品構造を敏感に読み取ったマーティンの明確な意図がそこにあるのは明らかでしょう。

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