「G線上のアリア」の分析(2)

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 前回は「まず細部を見て、次に全体を見る」分析プロセスをとりました。今回はその逆の、つまり「まず全体を捉えて、次に細部を見る」プロセスで分析を行います。
1.《G線上のアリア》の全体構造
《G線上のアリアは》大きく、前半(1-12小節)と後半(13-24小節)に分けられます。このような2つの部分に分けることのできる曲を、二部形式の曲と言います。ここでは前半を[A]後半を[B]とします。
 前半12小節+後半
12小節というバランスの取れた二部形式であることがわかります。でも曲を聴くと前半より後半のほうがボリュームがあるように感じます。不思議ですね。
 さらに細かく見ていきましょう。五線の下に書かれたアルファベットはその箇所の調を表しています(大文字が長調、小文字が短調)。
 [A]の前半6小節と後半6小節の内容はほぼ同じです。それぞれラスト2小節でKey of Gに転調しているとは言え、全体としては主調のKey of Cが占めている安定したセクションであると言えるでしょう。
 前半と後半の内容がほぼ同じであった[A]に対し、{B]は前半と後半の内容がまったく異なっています。これが前半、後半共に同じ12小節なのにもかかわらず、後半がより長大に感じる理由の一つです。
 それに加え、[B]の前半は2小節毎にめまぐるしく転調をしているということが特徴的です。後半は分析上は主調のKey of Cに戻りますが、実際に調が安定するのは[B]後半のラスト2小節に入ってからです。
 これまで見てきたことから[A]と[B]は対称的な構造をなしていることが解ります。しかし、構造上の対称性が重要なのではありません。構造上の対称性は《G線上のアリア》の特徴というよりも、西洋音楽の形式的特徴であるからです。より重要なのは「その対称性を演出しているのは何か」です。

2.《G線上のアリア》の旋律構造

次に旋律の面から[A]と[B]の対称性を見てみましょう。そのためにまず旋律還元を行います。旋律還元については前回の分析記事をご参照下さい。

 還元譜を見るだけでも著しい対称性が目に付きます。[A]は隣の音へと進む順次進行主体、それも下行音型主体です。

  一方[B]は跳躍音型、分散和音音型、上行音型を多用することで[A]と対比させています。[B]内部においても、2小節毎に跳躍主体のパッセージ、順次 進行主体のパッセージを交互に出すことで、ダイナミックな躍動感を演出し、静的な[A]との対称性をさらに強調している点は注目に値します。最高音のB♭ は曲中を通して一度しか登場していないところも重要な点です。

3.対称と統一

 これまでの分析を図にすると次のようになります。
このような対称性を演出する工夫が、《G線上のアリア》の構造的特徴となっています。ただし対称を効果的に演出するためには、統一感も意識しなくてはなり ません。統一の無い対称は単に「まとまりがない」だけになってしまうからです。《G線上のアリア》の場合曲を通して演奏されるバスの順次進行的ラインが統 一感の担い手となっています。
             =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
 これで分析はおしまいです。「対位法的要素」などまだやりのこしたことはあるのですが、それは別の機会に譲ることにしましょう。
付録 :《G線上のアリア》の和声構造と解説
 バス・ラインの還元譜にコード・シンボルを付記したものが次の譜例です。装飾的なコードは省略してあります。
[A]は属調(主調の5度上の調)に転調したまま終わる点が特徴的。5小節目のD7をセカンダリ・ドミナントととらえ、最後のGを半終止と解釈する可能性 もあるが。5小節目からのメロディにF#音が含まれており、聴感上はKey of Gに転調していると解釈するほうが自然。

[B]には Key of Gのまま突入するが、すぐにKey of Dmに転調、以後2小節毎に Key of Am, Key of G へと調が推移する。{B}の7小節目から旋律はKey of C に戻るが、和声はセカンダリ・ドミナントが連続しているため、安定はせず、躍動感が持続する。(ここが曲中でもっとも盛り上がる箇所。[B]ラスト2小節 でようやくKey of Cのカデンツが登場し曲が閉じられる。

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