ポール・マッカートニーのサポートキーボーディスト、ウィックスが使うブレスコントローラとは何か

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長きに渡り、ポール・マッカートニーのツアーキーボーディストを勤めてきた、ポール・ウィケンズ(以下、ウィックス)はLady MadonnaやLesten to What the Man Saidにおけるサックスの音色にブレスコントローラーを使用している。

ブレスコントローラーとは、かつてYAMAHAが販売していた商品で、マウスピースに息を吹き込むことによって、シンセサイザーの音色に変化を与える、コントローラーの一種である。

Lady Madonnaの間奏で、スクリーンに映し出されるウィックスに注目してほしい。ヘッドセットを付け、そこから伸びるチューブを口に咥えている。これがブレスコントローラーである。

通常、キーボードは鍵盤を押さえている間は音色が変化しない。それが独特の「キーボード臭さ」につながるのだが、ブレスコントローラーを用いて、「息づかい」を表現することで、音色に命が吹き込まれ、生き生きとした演奏になるのである。

しかし、誰が使っても良い演奏ができるというわけではなく、生身の人間の息づかいが、そのまま音に反映されるデバイスであるため、良い演奏のためには、管楽器的な演奏技能も求められる。ウィックスはブレスコントローラーの使い方が非常に上手く、とりわけ、Listen to What the Man Saidのソプラノサックスのナチュラルな息づかいには目を見張るものがある。

音色に自然な「揺らぎ」を与えることこそが、オルガン的になりがちな、シンセサイザー演奏の一番のポイントだと筆者は考えている。その点において、人間の身体の不安定さを「揺らぎ」として活かすことの出来るブレスコントローラは、最適なデバイスと言えよう。

YAMAHAのブレスコントローラーは、つい最近製造中止になり、もう新品を買うことはできない。YAMAHAのシンセサイザーにも MOTIF の途中のモデルまではブレスコントロール端子が装備されていたのだが、今のモデルには端子も無くなっている。

人間の身体の不安定さを利用するが故に、演奏も難しいが、ウィックスの演奏するサックスのサウンドが証明するように、使いこなした時に得られる効果は絶大であり、それがブレスコントローラの面白さなのである。このようなデバイスが過去の遺物となっていくことは残念でならない。


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