楽曲分析《G線上のアリア》(1)

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J.S.バッハの作品《管弦楽組曲第3番》BWV.1068の第二曲、一般的に《G線上のアリア》と 呼ばれて親しまれている曲の冒頭部を分析します。いわゆる「クラシック」に類する曲ではありますが、ポップスにも通ずるところも多いので、ポピュラー音楽が お好きな方のお役にもたてると思います。

・分析の方法

 分析は大きく分けて二つの方法があります。第一に「はじめに全体を、次に細部を見る」方法、第二に「始めに細部を見て、次に全体を見る」方法です。《G線上のアリア》の全体構造はそれほど複雑ではないので、ここでは後者を採用します。
・旋律還元
  実際に分析するにあたり、「旋律還元」の技法を用います。「旋律還元」とは旋律の装飾的な音を取り払い、リズムを簡略化することで、メロディの骨格を浮か び上がらせる技法です。この説明だけではわかりにくいので実例をお見せしましょう。以下の譜例は「大きな古時計」の旋律還元の実例です。(記憶だけで書い たのでもしかしたらコードは間違っているかもしれません。「もしこのコードで分析するなら」程度に考えて下さい。)
旋律還元は島岡謙氏による教科書音楽の理論と実習 (1)で解説されています。
  原型に還元して旋律を見てみると、1小節目から2小節目にかけて「G、A、B」と伸びやかに繋がる旋律(順次進行)と、三小節目から4小節目の間にある跳 躍進行が、「大きな古時計」の旋律的特徴になっていることがわかります(非和声音のAがさらにその特徴を強調します)。このように旋律還元はその曲の特徴を浮かび上がらせる効果があります。
・《G線上のアリア》を分析する
 二小節ずつ順に見ていきましょう。冒頭2小節はこのような旋律です。

  できれば誰の演奏でも良いのでyoutubeで実演を聴いてみてください。2小節目にさしかかったところ、なんだか「グッと」きませんか? そのような 「グッと」来る場所のことを「頂点」と言います。なぜこの箇所が頂点として感じられるのでしょうか。このような疑問の答えを出す作業が「分析」、その作業 のために使うツールが「理論」です。

・1-2小節

 冒頭2小節を還元したものが上の譜例です。( )内の示した音は旋律を伴奏するコードに含まれない音だと思ってください。1小節目のE音はCに含まれる音(和声音=コード・トーン)なので、コードに合う音、すなわち協和音ですね。

問題は第二小節の頭のE音です。この音は前の小節からタイ(結ばれた2つの音を弾き直さないことを示す記号)で結ばれています。コードがFに変わった瞬間このE音は不協和音になりました。Fコードの構成音はF,A,CですからEは含まれません。

 その直後をみるとE音はD音へと動きます。そのときコードはD/F#に変化します。D音はD/F#というコードに含まれる音なので再び協和音となります。このプロセスを整理しましょう。

①ある旋律音(協和音)が引き延ばされる。(予備)
②コードが変化することで、旋律音は不協和音になる。
③旋律音が隣の音に進行することで、再び協和音になる(解決)

 このような動きをする音のことを「繋留音(けいりゅうおん)」と言います。繋留音を上手につかうと「グッと」くるんですよね。第二小節が「グッと」くるのは繋留音を上手に使っているからです。
  一小節目のE音に注目して下さい。すごく長くのばしていますよね。《G線上のアリア》はヴァイオリンで演奏されますが。ヴァイオリンで音を長く伸ばすのは とても緊張するものなんです。ロングトーンというのは心理的に「緊張する音」なんです。E音が伸ばされている間、エネルギーは内にこもっていきます。
  この長続いた緊張、たまったエネルギーが解放されるのは、繋留音がDに解決したときです。これだけでも繋留音を強調する効果があるのですが、バッハはさら に一工夫をしています。繋留音が解決するE→Dの動きの間に AとFの音を「飾りとして」入れているんです。緊張を強いられた中でAに跳躍する。この時点 でE音は未解決ですから緊張はピークに達します。その直後にD音へと解決することで、エネルギーが放出されて緊張が解けます。これが第二小節が「グっと」 くる理由です。旋律は2小節目の最後でG音に落ち着き(Gのコードの上のG音なので非常に安定感があります)次の小節ではオクターブ上のGから仕切り直さ れます。
・3-4小節
3、4小節目メロディとその還元譜です。4小節目の構造は3小節目と同じなので省略してあります。
この箇所、実際には1本のヴァイオリンで弾かれる1本の旋律なのですが、分析的には別々の2つの旋律があると考えます。なぜなら3拍目のG音とバスのC#音が形成する増4度という音程は、もっとも緊張感のある音程であり、お隣の音に解決する必要がある音だからです。
・5-6小節目

  旋律が一旦落ち着く(半終止と言います)5−6小節目はEからGへど下行するラインとなっていることがわかります。この曲の調はC(ハ長調)なのですが、 一時的のその5度上(属調といいます)のG(ト長調)に転調していると考えられます。転調しているといっても一時的なものなのですぐに元にもどります。さて、ここでのポイントは和声よりもむしろ、第5小節、2拍目のG音とそこから3拍目のC音ににかけての5度加工跳躍です。この動きによりほんのちょっと したアクセントが生まれていることに注意してください。アクセントといっても2小節目の「頂点」ほどの力が生まれているわけではないところもポイントで す。このアクセントがあることで伸びやかにつながってきたメロディの終わりを引き締める効果が演出されているのです。

このあたりは、昔フジテレビでやっていた「音楽の正体」という番組の解説が面白かったですね。映像を見る機会があればぜひご覧になってください。すでに絶版ですが本にもなっているので、図書館や古本屋さんで見つけたら手にとってみても面白いと思います。

・全体をみる

分析は細部だけを見ても意味がありません、全体としてそれらがどのように構築されているかを知る必要があります。全体の分析譜を以下に示します。
 このようにして全体を俯瞰すると「静」「動」「静」の三部構造になっていることがわかります。そして「動」を挟む2つの「静」には心理的なアクセント(頂点)が配置されていることもわかります。とてもよく出来ていますね。
※最後の分析図はいわゆる「シェンカー分析」風に見えますが、まったく別物ですのでで混同しないようにしてください。

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